


社会現象級ヒットを生み出し続ける“チーム・YOASOBI”に聞く、ヒットへの意識と音楽業界のこれから
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
屋代 陽平 / 山本 秀哉
音楽業界で輝く方にスポットライトを当て、彼らの仕事や想いを通して今の音楽業界を伝える新企画、3rd Lounge。
第2回は時代を象徴する音楽を発信し続けるYOASOBIを手掛けるソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代 陽平氏と山本 秀哉氏が登場。
彼らの音楽ルーツ、現在の仕事について、YOASOBIと音楽業界のこれからという3つのテーマを設け、話を聞いた。
インタビュアーは前回に続き、モデル業を中心に、多岐にわたって活躍する“音楽好きモデル”武居 詩織が務める。
Chapter.1
二人の音楽ルーツとYOASOBIを誕生させた『monogatary.com』

武居:おふたりの音楽ルーツを教えてください。
屋代:4歳でピアノを始めて、18歳くらいまで習い事の一環としてやっていました。J-POPや洋楽、ロックを人並みに聴きながらも、アニメやニコニコ動画が大好きだったので、ボーカロイドやアニソン、声優さんの歌などをよく聴いていました。そこで、アニメなどのカルチャーと音楽をハイブリッドで仕事に出来る環境があったソニーミュージックグループへの就職を選びました。

山本:僕は「音楽幼稚園」っていう音楽の名が付く幼稚園に通っていたんですよ。色んな楽器を触らせてもらった記憶があるのですが、その時は“やらされている感”が嫌で、音楽もそんなに好きじゃなかったんです。でも、中学生の時にポルノグラフィティにハマって、音楽が好きになったんです。それからはレンタルショップに行って一度に何十枚もCDを借りて、録音して、返して、また借りて…を繰り返していました。当時はジャンル問わず、売れている音楽は片っ端からチェックしていましたね。大学では軽音楽部に少しだけ通っていました。
武居:売れている音楽を聴く中で発見はありましたか?

山本:当時は、いろんな曲を聴いて、なんでこの曲が売れているんだろうといった疑問を持ちながら音楽を聴いていました。すでに実績のあるアーティストだからヒットする曲もあれば、いきなりヒットする曲もあって、売れ方もそれぞれだなと。そこに思考を巡らせながら音楽を聴くのが趣味として好きだったんです。だから就職活動の時に、“音楽業界が向いているかも”とは頭の片隅にあって、そこでソニーミュージックグループを受けたんです。

武居:屋代さんは入社後、様々な業務を経て『monogatary.com』のローンチに携わられましたが、もともと小説もお好きだったのでしょうか。
屋代:そうですね。小説を読むのがすごく好きでした。でも立ち上げた時は、小説というよりも、『カゲロウプロジェクト』や『電車男』など、インターネットカルチャーからヒット作が出ることが面白いなって思っていたんです。
武居:小説投稿サイトは、『魔法のiらんど』や『小説家になろう』などもありますが、“お題”があることで他サイトと差別化されていますよね。
屋代:『monogatary.com』は後発だったので、差別化要素を作る必要はありました。分かりやすい既に他の投稿サイトで書いている人向けというよりは、“書きたいけど、何から始めたらいいかわからない”という人のために、お題を出して、少し背中を押してあげられるような仕組みを用意しました。
Chapter.2
チーム・YOASOBIとして大事にしていること
武居:YOASOBIに関わるプロジェクトが立ち上がった背景や流れを教えてください。

屋代:実は、具体的に何かがあったわけではないんです。ただ、“小説を原作にして何かを作る”という考えはmonogatary.comをやっている以上もともとありました。いろいろな形で挑戦していく中で、弊社でやるなら、音楽を作るのが面白いのかもとは思っていたんですよね。そこに近しいものを何度か挑戦した結果、最終的にYOASOBIの形にたどり着きました。
武居:これまでボカロ・小説ブームもあったと思いますが、起点になっているのが音楽でしたよね。その逆の発想となるわけですよね。

屋代:そうですね。monogatary.comの企画としてやる以上、小説スタートというのは自然な発想でしたし、ボカロ小説というのはカルチャーとしてあって、親和性もあるので、逆の矢印はあるかもねという話もしていました。
武居:スタート当初に明確な目標やゴールなどはあったんですか?
屋代:それが、本当にないんです(笑)。
山本:反応を見ながらできる世の中だと思うので、チューニングしながらやっていければいいかな、と思うくらいでしたね。
武居:今回は小説がベースでしたが、さらに広げていこうという意識は持たれているのでしょうか。
屋代:そうですね。YOASOBIは他の事務所や別の会社を巻き込まずに、自分達だけで始めたことだから、スピード感が保たれているんです。だからこそ、何か広げていきたいときに、弊社が持っているアセットをフル活用することで、自分達だけではできないことができるので、それはグループ会社が多いメリットだなと思っています。
武居:“チーム・YOASOBI”として大切にしていることはなんでしょうか。
屋代:やはりスピード感は意識しています。あと、チームの中でも、“自分が一番やるべきことのみをやる”ということは大事にしています。チームなので、他のことは信頼して任せていくとスピード感をもって動けますね。そこは今後も意識的にやっていきたいと思っています。


山本:いま言ってくれたスピード感など、他と比べて我々が強い部分はすごく力を注ぎますし、連携してみんなで力を合わせていくことは大事にしています。お客さんの反応を見て、“ここに反応があるな”と思ったらすぐにそこに燃料をどんどん投下していくことは意識していますね。
武居:YOASOBIは様々なチャートを席巻、今年上半期のレコチョク関連ランキングでも3つのアーティスト部門で1位を獲得しています。その要因はどこにあると思いますか?
屋代:様々な部門で1位を頂くということは、この曲を瞬間的に聴いていただいただけでは成し遂げられないんです。だからこそ、リリースの頻度を上げたり、一つ一つの曲に、タイアップなどいろいろな情報を付加することがすごく大事なんですよね。
山本:アーティストにしても、曲単体にしても、長く売れるといいなと思っているんです。そのために、リリースから随分たっていたとしても、なにか新しい情報を都度与えてあげて、長く聴いてもらえるような環境を作ることが大事だと思っています。
武居:「夜に駆ける」「三原色」「怪物」は英語バージョンもリリースされましたよね。
山本:たまたまikuraが昔シカゴに住んでいたことがあって、英語の発音がいいんです。それはすごく強みなので、英語で出すことにしました。今後も新しい挑戦を続けていきたいですね。
武居:売り方で意識されているのはどのようなことでしょうか。
屋代:直近のリリースを例に出すと、「三原色」は3月からahamoのCMソングとしてずっとオンエアされていました。僕ら的には、この曲はチャート1位を狙いたい曲だったので、配信の時期を少しCMとずらしたり、MVの公開に合わせて大掛かりな展開を仕込んだりと、発売日にピークを迎えるようなスケジューリングをしていました。逆にその後にリリースした「ラブレター」は、チャートで1位を獲るというよりは、バックグラウンドのストーリーを丁寧に伝えたかったんです。チャートに長く残る曲にしたいので、楽曲ができた経緯も分かるティザー映像を作ったり、共通のハッシュタグで曲の感想を書きやすい呼びかけをするなど、アプローチを変えています。「ラブレター」はチャートとしては20位~30位くらいなんですが、聴いてくれた人の中には「一番いい曲だ」と言ってくれる方もいて、伝わっているという手応えもありました。セールスの規模感こそ違いますが、どちらも成功だったなと思っています。
Chapter.3
YOASOBIと音楽業界のこれから
武居:今後、YOASOBIがさらに飛躍するために重要だと考えていることを教えてください。
屋代:YOASOBIは、小説の原作があって、メディアミックスがたくさんできるので、他のアーティストさんとは違った強みを持っています。だからこそ、映像や小説、本を出してもYOASOBIという冠が載るのはおもしろいですよね。なので、今後は書籍や映画のチャートでもYOASOBIの存在感を出すことができたらいいなと思っています。


山本:YOASOBIは音楽以外にも多角的な展開が出来るからこそ、概念的な話かもしれないですが、“いい曲”じゃなくても売れたらいいなと思っています。歌詞が小説とリンクしていてすごくよかったり、映像が小説ともリンクすることによってすごい力を発揮したりと、今までの音楽的なヒットのセオリーから離れていても、いろんな掛け算によってヒットが生まれたらいいなと思っています。
武居:お2人が今注目しているアーティストがいれば教えてください。
屋代:ここ数年アイドル現場に行くことが多いのですが、今はGO TO THE BEDSというアイドルが日常の楽しみです。応援する中でできた友達とご飯を食べたりお酒を飲むことも含めて、これ以上のエンターテインメント体験はないなと思っていて。100%遊びで行っているのに、ファンの心理や話題の広がり方、アーティストの振る舞いや発信するメッセージなど、結果的に仕事の色々な部分に繋がるところにも面白さを感じています。
山本:オフで聴いているのはスピッツですね。ここまでバランスのいいバンドっていないんですよ。ヤバいことをやっているのに、ヤバく聴かせないバランスって才能だと思うんですよね。すごくきれいなメロディに、きれいな声、アンバランスな歌詞が載っているんです。そこが不穏にさせるからこそ、ずっと聴けるんです。
武居:最後に、今後の音楽業界について思うことを教えてください。


山本:“音楽はなくならない”と言われていますが、これだけ古い曲にたくさん触れられる時代になって、出会ったときが新曲になっているからこそ、新曲が必要なくなってしまう危うさはゼロではないのかなと思っています。
だからこそ、聴く人のモチベーションをちゃんと考えて作ってあげないと、聴く動機にならないので、丁寧に届けるためのことを考えてあげないといけないなって思っています。常にアップデートしていかないと、飽きちゃいますからね。
屋代:実は、僕自身、YOASOBI以前はアーティスト周辺の仕事をしたことがなくて、新規事業開発やスタートアップとの協業、連携の仕事をやっていたんです。そこから一転してこの2年間音楽ビジネスに触れているなかで、個人的には自社に所属しているアーティストやミュージシャンだけでなく、関わってくださる外部のクリエイターやスタッフ、技術者にもっとちゃんとお金が行き渡るようにしないと危ないなと思っています。
この記事を最後まで読んでいただいた方がいるとすれば、そうしたことに対して業界の皆さんの考えていることも知りたいなと思います。誰が正しいという話じゃなくて、さまざまな意見があると思うので、意見交換ができたりすると嬉しいですね。
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屋代 陽平
2012年ソニーミュージックグループ入社。音楽配信ビジネスを経たのち、2017年に小説投稿サイトmonogatary.comを立ち上げる。2019年、同サイトの企画の一貫でYOASOBIプロジェクトを発足。
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山本 秀哉
2012年ソニーミュージックグループ入社。CDやゲームのパッケージ制作業務を経て、現在はさまざまなアーティストの宣伝・制作業務に携わる。2019年よりYOASOBIプロジェクトの立ち上げに参画。
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武居 詩織
埼玉県出身。透明感のある唯一無二の存在感で、広告・ファッション雑誌等で活躍。
FUJI ROCKなど国内のフェスに毎年参加するほどの音楽フリーク。
音楽好きモデルとしてライブのレポートなどで活躍する傍ら、有名アーティストのMVにも続々と起用されている。
音楽好きモデルとしてTOKYO FMのYouTubeにて『武居詩織の拝啓、音楽業界さま』を月一で生配信中。