


アニメ『Vivy -Fluorite Eye’s Song』の音楽制作スタッフが語る、音楽業界のこれからと音楽への情熱
アニプレックス 音楽プロデューサー 山内 真治
MONACA 作曲家 神前 暁
音楽業界で輝く方にスポットライトを当て、彼らの仕事や想いを通して今の音楽業界を伝える新企画、3rd Lounge。
第1回は2021年のヒット作・アニメ『Vivy -Fluorite Eye’s Song』の音楽制作を務めるアニプレックス 音楽プロデューサー・山内真治とMONACA所属の作曲家・神前 暁が登場。
彼らの音楽ルーツ、現在の仕事について、音楽業界のこれからという3つのテーマを設け、話を聞いた。
インタビュアーはモデル業を中心に、多岐にわたって活躍する“音楽好きモデル”・武居詩織が務める。

Chapter.1
音楽・アニメとの出会い、きっかけ
武居:お2人が音楽業界に入ったきっかけを教えてください。
山内:僕は学生の時にバンドでプロデビューを目指していたんです。でもなかなか上手く行かなくて、才能の限界を感じてしまって。それでその後の身の振り方を色々考えていた時に、ステージで演じる側ではなく、スタッフとして作る側に行けば、自分にもやれることがあるんじゃないかと思ったんです。それからは方向転換をして、レコード会社の入社試験を何社も受けてこの業界に入りました。

武居:バンドと裏方はだいぶ印象が違うと思うのですが、いかがですか?
山内:自分でバンドをやっていた時は、オリジナル曲作ってライブハウスで演奏して…という日々だったんですが、当時は自分たちの曲や活動をお客さんに伝える媒体も少なかったので、とにかく“イカ天(平成名物TV三宅裕司のいかすバンド天国)”に出ることを目指していました。箸にも棒にもかからなかったですけど(苦笑)。
武居:当時はこの番組に出ることが目標でしたよね。
山内:そうなんです。この番組に出れば、翌週からライブハウスが満杯になると言われていましたからね。ともかく、やむなく方針転換して。就職活動してソニーミュージックに入社したんです。とは言えソニーミュージックにはアニメソングを扱う部署がなかったし、自分の経験値もまだまだだったので、現在担当しているアニメの音楽に仕事として初めて触れたのは2004年くらいでした。
武居:もともとアニメが好きだったんですか?
山内:好きでしたね。子供の頃から、けっこうな数のアニメを見てましたし、アニソンもよく聴いていました。当時のロボットアニメは食い入るように見ていましたし、妹が見ていた少女マンガ原作のアニメまで見ていました。それが今、仕事に繋がっているので面白いですよね。

武居:神前さんはどのようにしてこの業界に入ったのでしょうか。

神前:もともとピアノをやっていて、中学から吹奏楽でトランペットを始めたんです。大学に入ってからは作曲サークルに入り、オリジナルをよく作っていきました。そこでテクノやファンクなどのインスト系の音楽を作ったり、フュージョンや民族音楽、アングラっぽい音楽などもよく聴いていたのがルーツですね。ただ、就職活動では山内さんのようにレコード会社ではなく、楽器メーカーやゲームメーカーを受けて、ナムコ(現バンダイナムコスタジオ)に入社したんです。それから会社員としてゲーム音楽を作っていました。
武居:ものすごく多岐にわたるジャンルの音楽を聴いていたんですね。
神前:そうですね。自分の中から音楽が湧き出てくるというよりは、いろんなものを聴いて吸収し、自分なりに咀嚼してアウトプットをすることが好きだったんです。それが今の仕事にも繋がっている気がしています。
武居:そこからアニメにどう結びついたのでしょうか。
神前:ナムコでたくさんの勉強をさせてもらってから、ゲーム以外の劇伴や歌ものの音楽にも興味があったので、独立し、今の会社(MONACA)に入ったんです。
武居:お2人とも最初は現在とは違うところからのスタートだったんですね。
山内:はい。ちなみに僕はその当時ビーイング系の音楽が大好きで、何なら卒論レベル以上のビーイング論を書いて会社に提出していたくらい入れ込んでいたんですが、その後ビーイングに取って代わるように世に台頭してきたのが渋谷系と呼ばれるサウンドで、何というか自分の好きなものに引導を渡されたみたいな気がして、ある種渋谷系サウンドを逆恨みをしていたんです(笑)。でも、敵を知ってやる、くらいの気持ちでずっと渋谷系サウンドを聴いていたら結構詳しくなってしまって、2012年の花澤香菜のファーストアルバムで、渋谷系サウンドを裏コンセプトにした作品を作ってしまったという(笑)。でも、そうやってたくさんのジャンルを聴いてきた経験が今の自分にすごく強く生きています。
神前:私もそうですね。私の場合は、独立して最初の年に京都アニメーションさんの『涼宮ハルヒの憂鬱』という作品の仕事をやらせていただいたんです。その後に『らき☆すた』という作品をやらせていただき、非常に大きな反響をいただいたんです。それが自分の大きな自信になり、今に至っています。

Chapter.2
楽曲の魅力と制作秘話
武居:アニメ『Vivy -Fluorite Eye’s Song』の音楽制作に携わられているおふたりですが、一緒にやることになったきっかけを教えてください。
神前:アニプレックスさんからお声がけをしていただいたんですよね。
山内:アニメ音楽の作曲家さんはたくさんいらっしゃるんですが、主題歌、キャラソンといった歌モノから劇伴曲まで、すべてを一人で、しかも高いクオリティで書いてくれる人ってなかなかいないんです。神前さんはそれが出来る数少ない人で、僕なりにその凄さを色々な作品で思い知ってきました。『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』は歌が色々な局面で重要な役割を持ち、劇伴にも歌モノとの音楽的な一貫性が欲しい作品だったので、アニメのプロデューサーと“この作品の音楽は神前さんじゃないとできないよね”と話していたんです。

神前:嬉しいですね。僕は最初、“なんで僕なんだろう”って思ったんです。僕は日常的な音楽や、かわいい音楽の方で認知されているので、シリアスでスケールの大きな作品に指名していただいたことが意外だったんですよ。でも話をよく伺うと、普遍性のある歌唱曲を書いてほしいということだったので、腑に落ちました。
武居:実際にレコチョク上半期ランキング2021・ダウンロード部門の新人アーティストランキングでは本作の楽曲を歌唱されるヴィヴィ(Vo.八木海莉)が1位を獲得しました。あらためて、アーティストの魅力はどんなところにあると思いますか?
山内:この曲は最初から八木海莉さんにボーカルが決まっていたわけではなくて、まずは作品ありきで、曲から作ってもらう所からスタートしたんです。その後、八木海莉さんがヴィヴィの歌唱を務めることになって、レコーディングで何度かその歌声を聴いていくうちに、「八木海莉さんが歌うヴィヴィの曲」のイメージがつかめていった感じですよね。
神前:そうですね。彼女自身、レコーディングの経験があまりなく、何曲かレコーディングしていくうちにクオリティも上がっていきましたし、どんどん成長してくれたんです。それが本編のヴィヴィの成長と奇跡的に、非常にマッチングしたんです。そのあたりから“八木海莉、すごいな”ってなりましたね。
山内:曲を作る側にインスピレーションを与えてくれる歌い手ですよね。声質も飛びぬけて特徴的、というわけではないですが、でも個性的で、心地よくて、とにかく耳に残る。

神前:あとはテンションがいい意味で低い感じがAIっぽくて、この人材を隠し持っているソニーミュージック、すごいなって思いました(笑)。
武居:さらに、今回1位を獲得したことによって、世間に見つかりましたしね。
神前:すごいですよね。いまはアニメソングってネガティブな要素ではまったくないでしょうし、共通の体験としてソウルミュージックになっているんでしょうね。
山内:そうですね。アニメファン、オタクではない人たちのところまで『化物語』や『涼宮ハルヒの憂鬱』などの曲の認知が広がったのは、なにより“神前メロディー”の魅力があったからです。『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』のストーリーにおいては、100年もの間歌い継がれて行く曲、言うなればスタンダードナンバーの様な強いメロディの曲が必要だった。だからこそ神前さんにお願いした訳ですが、思った以上に上手くはまったのではないか、と思います

Chapter.3
プロが語る、音楽業界のこれから
武居:今後の音楽業界に重要なものはどんなことだと思いますか?
山内:00年代中盤からニコニコ動画を中心にボカロPが出てきて、その後どんどん進化してYouTubeなどを主戦場にして楽曲を発表している人たちがメチャクチャ増えてきたと思うんですが、これどこで息継ぎをするの?みたいな曲や、これずっとサビが続いているよね?みたいな曲が出て来るようになったんですよね。そういった曲を聴くと、刺激を受けたり、面白い、と思う反面、“でもそれだけじゃないんだよ?”というところを見せたいと思うんです。そういう意味では、常に最先端なものと、そのカウンターのようなものはすごく意識していると思います。
神前:私は、今の音楽業界ってものすごくクオリティが高くて充実している時期だと思っていて。90年代終盤にJ-POP黄金期があったんですが、その当時に匹敵するくらいだと思うんですよ。だって、いまやあのOfficial髭男dismがアニメ主題歌をやる時代ですからね。そこで“かなわないな”という部分を感じつつ、好きなもの、好きな音楽に忠実にならなくちゃいけないときがあって。そこにヴィヴィのお話をいただいたので、そういう気持ちで取り組ませてもらったんです。
武居:今後の音楽業界はどうなっていくと思いますか?
山内:私は今後、音楽ってもっと個人的な体験になってくと思うんですよ。きっと、ググったりせずに、サブスクでオススメされていくものから繋がって色々聴いていく経験をしていく人がもっと増えていくんだろうなと思った時に、音楽を発信する側もどのような文脈で自分たちの音楽を紐づけて行くか、というテクニックが必要になってくると思うので、その研究をしていきたいと思っています。あとは、もっと個人的な、オーダーメイドの音楽のようなものを作る時代になるかもしれないですね。
神前:モーツァルトの時代ですよね。

山内:そうそう。そういった文化を育てるような高尚なものではないかもしれないけれど、究極にパーソナルなものになる可能性はあるんじゃないかなと思っています。

武居:なるほど。では最後に、おふたりにとって、音楽とはどんなものでしょうか?
神前:僕は、音楽は自分以外の世界とコミュニケーションをする言語のように感じていて。作曲家って孤独なお仕事ですが、作品は思った以上に多くの人に届いているんです。若い人もいい曲を作れば絶対に目立つので、いろんな人の目に留まるので、どんどん挑戦してもらいたいですね。
山内:僕は、先輩の受け売りなんですが、音楽は“熱意の伝達ゲーム”だと思っています。聴いている人を感動させることができる喜びがこの仕事の醍醐味ですが、相当な熱意がなければ人の心は動かせない。だから、自分自身も折れない心で、情熱を持ち続けて、音楽、そしてアニメ作品に向き合っていきたいと思います。
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山内 真治
(株)アニプレックス音楽プロデューサー。
LiSA、花澤香菜等のアーティストプロデュース、『Fate』シリーズ、『ソードアート・オンライン』シリーズ等のテーマソングやキャラクターソングの制作、『<物語>シリーズ』、『はたらく細胞』『かぐや様は告らせたい』『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』等のアニメ及び『Fate/Grand Order』、『マギアレコード』等のゲームの音楽プロデュースを担当。 -
神前 暁
作曲家。大阪府出身。京都大学工学部卒業。
株式会社ナムコ(現(株)バンダイナムコスタジオ)を経て現在はMONACAに所属。アニメ・映画等の劇伴音楽やアニメソングの作編曲、アーティストへの楽曲提供・プロデュースなど、幅広い活動を行う。近年は大学講義や各種メディアを通じて後進の育成にもあたる。
代表作は『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』、『BEASTARS』シリーズ、『<物語>シリーズ』、『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ、『らき☆すた』、『THE IDOLM@STER』シリーズ -
武居 詩織
埼玉県出身。透明感のある唯一無二の存在感で、広告・ファッション雑誌等で活躍。
FUJI ROCKなど国内のフェスに毎年参加するほどの音楽フリーク。
音楽好きモデルとしてライブのレポートなどで活躍する傍ら、有名アーティストのMVにも続々と起用されている。
音楽好きモデルとしてTOKYO FMのYouTubeにて『武居詩織の拝啓、音楽業界さま』を月一で生配信中。