


サブスクを中心にヒットを生み続けるエイベックススタッフが語る、音楽業界のこれから
エイベックス・エンタテインメント株式会社 山賀 克也
音楽業界で輝く方にスポットライトを当て、彼らの仕事や想いを通して今の音楽業界を伝える新企画、3rd Lounge。
第3回はサブスクを中心にヒットアーティストを次々と手掛けるエイベックス・エンタテインメントの山賀 克也氏が登場。
彼の音楽ルーツ、音楽を届ける上で大事にしていること、コロナ禍を経た今後の音楽業界という3つのテーマを設け、話を聞いた。
インタビュアーは前回に続き、モデル業を中心に、多岐にわたって活躍する“音楽好きモデル”武居詩織が務める。
Chapter.1
音楽ルーツとエイベックスとの出会い

武居:山賀さんの音楽のルーツを教えてください。
山賀:この業界だと“父親がビートルズ好きだった”だとか、“近所にギターがうまいお兄ちゃんがいた”とか、そういった話をよく聞くんですが、僕はそんなエリートなルーツはなくて(笑)。最初に借りたレコードが田原俊彦さんの「抱きしめてTONIGHT」で、最初に買ったCDが工藤静香さんの「gradation」ですね。高校に入ってからもオリコンランキングの上位ばかり聴いていました。

ただ、90年代初頭に日本にも本格的にヒップホップが入ってきて、すごく衝撃を受けたんです。そこからGang StarrとかA Tribe Called Questとか東海岸もののラップと、Dr.Dreとかの西海岸ものと呼ばれていたのをよく聴いていたんです。それらを聴いていると、“サンプリング”の文化に気づき、それを調べていくうちに様々なジャンルの音楽の沼にハマリ、そこからファンクやソウルミュージック、ジャズやらAORやらを掘っていって。で一方イギリスのMo’WaxレーベルものとかHIP HOPのトラックものとかも聴くようになってくうちにドラムンベースやテクノ、トランスに行きつき、ボアダムスを経由して、気づいたらアメリカの60年代のロックも聴くようになったり…。そこから逆流して、60年代、70年代、80年代をぐるっと1周して聴いていたような感じでした。結果として、広く浅い人間になりました(笑)。

武居:今もいろんなジャンルを聴かれるんですか?
山賀:そうですね。ありがたいことに、サブスクがいろいろオススメしてくれるので聴いています。昔ほどアグレッシブに掘ることはなくなりましたが、仕事柄、日本人の音楽もたくさん聴くようになりましたね。
武居:音楽を仕事にしようと思ったきっかけを教えてください。

山賀:大学生の頃にDJをしていたので、漠然と音楽業界を見据えていたんです。そこで、当時業績が右肩上がりだったカルチュア・コンビニエンス・クラブに就職をしました。そこでは全国のTSUTAYAのレコード店に商品を卸すインディーズのバイヤーをやってました。1998年から2000年くらいってインディーズがすごく盛り上がっていたので、メーカーの人たちといろいろ話すことも多かったんですよね。その後、カルチュア・コンビニエンス・クラブを退社し、エイベックスに入社しました。
Chapter.2
音楽を届ける上で大事にしていること
武居:エイベックスに入社してからアーティストを手掛けられるようになり、意識的に変えたことはどんなことでしたか?
山賀:最近特になんですが、“若い人とコミュニケーションを取る”ということですね。音楽のトレンドを作るのはいつの時代も若者なんです。トレンドって、大人の力が介在していないところで自然発生すると思っていて。そこに大人が絡んでいると、どこか偽物っぽくなるんですよね(笑)。だからこそ、若者のリアルタイムの意見は真実だと思うので、しっかりと聞くようにしています。
武居:特に昨今はTikTokからの流行もよく生まれていますよね。
山賀:そうですね。僕もよく見るようにしています。一時期は朝起きてまずはTikTokを開き、寝る時はみながら寝るという、ギャルのような生活をしていました(笑)。そんなこんなで昨年はTikTokを中心に、様々なカルチャーが生まれてきて、トレンドが変化していったのを感覚的に感じたんですよね。なんとなくそれまでオルタナティブでオシャレなものがトレンドだったのが、コロナ禍で外出できなくなり、内省的で個人的な弾き語り系やデジタルネイティヴなボカロ勢などが台頭していくのをリアルタイムで見ているのはすごく面白かったですね。


武居:では、アーティストを手掛ける際に工夫されていることはどんなことですか?
山賀:今一番気にしているのは歌詞ですかね。今の時代的に歌詞って割とトレンドを象徴的に反映するものな気がしています。極論、コロナ禍でパーティーの曲を歌っても共感されない的な。あとは、出来上がったクリエイティブをどのタイミングで配信をして、SNSに投稿して、TikTokやインスタでライブをして…など、そういったことを組み立てることはチームでも計画的にやっています。
あと昨年、平井 大はコロナ禍になって2週間に1回、連続配信をし続けようという本人発信の企画を5月からやっていたんですが、これは録りためていたものではなく、作っては出すという形だったので、アーティストが“今”感じていること、思っていることがタイムラグなくリスナーに届いていくというスピード感は、とてもエキサイティングでしたね。ジャケットは、コロナ禍で撮影もできなかったので、本人が書いたイラストがそのままサムネイルになり、トンマナを合わせていくことで認知が広がったような気もします。今や連続配信リリースは割とスタンダードになりつつありますよね。平井 大は、今年は3月下旬から3週間に一度、夏に限っては毎週新曲をリリースしてまして、このスピード感で、次々と曲が出てくる平井 大にはホント脱帽しています(笑)。
武居:スピード感が本当にすごいですね。
山賀:はい、本当にすごいです。以前は、半年スタジオにこもってレコーディング、というアーティストも多かったと思いますし、今もそういうタイプのアーティストさんもいるとは思いますが、現在は自宅である程度まで仕上げられるアーティストも多く、全てがそうではなくなってきているのかなとも思いますよね。
武居:山賀さんが一番やりがいを感じる瞬間はどんな時でしょうか。
山賀:最近で言うと、フジロックですね。僕はAwesome City Clubも担当しているんですが、2年くらい前に他社さんからエイベックスに移籍してきてくれたんです。メンバーが抜けたり、移籍していきなりコロナ禍という感じで、皆で色々模索していた中、「勿忘」が爆発し、見える景色がガラッと変わったんですよね。そんな中、先日開催されたフジロックの一番大きなグリーンステージへ出演のオファーがありまして。メンバー、マネージメント、サポートメンバー、スタッフも含めていろいろな想いを抱えて、グリーンに挑みました。それがまあとにかく素晴らしいステージだったんですよね。そういった瞬間が、本当にこの仕事していてよかったなと思う瞬間ですね。自分もフジロックは黎明期から通っていた人間なんで、担当しているアーティストがグリーンステージに立つってすごいエモいですよ。そこで素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたあの時間は、至福の瞬間でした。
Chapter.3
音楽業界のこれから
武居:音楽の届け方は様々な方法があるかと思いますが、ヒットの指標にされていることはありますか?

山賀:僕らが今ヒットしているかどうかの指標で見ているチャートは「Billboard Japan Hot100」なんです。サブスクやCD、Twitter、YouTube、ラジオ、CDを取り込んだときの回数やカラオケも入っているので、いま、日本で一番聴かれている曲、評価されているアーティストが分かりやすいのは「Billboard Japan Hot100」かなと。ユーザーと音楽との接点が、デジタルに移行してきているので、どこでどういうふうに聴いてもらうか、考える必要がありますよね。そしてどこからヒットが出てくるかわからないという面白さもあります。

武居:昨今、配信ライブも増えてきていますよね。
山賀:個人的には、やっぱり生でライブを観るということが至高の体験だと思うので、これに勝つものはないと思います(笑)。ただ、ある程度コロナが落ち着いたとしても、一度始まったライブ配信の流れはなくならないと思うんですよ。おそらくその先にはVRの世界で楽しんだり、メタバースのようなバーチャル世界をデジタル上に作って、アバターとして参加してもらったりという楽しみ方も出てきて、いろいろと選択可能な時代になっていくんじゃないでしょうか。
武居:オンラインゲームのような感じですね。
山賀:そうですね。どちらにせよ、没入感は必要になってくると思うんです。でも、それがどんどん実現していったら、一生バーチャルで生きていくような世の中になるような気もしますね(笑)。だとしても、リアルなライブはすごく大事だと思います。アーティストがモチベーションを維持するためにも必要ですし。自分で作った曲を、自分のことを愛してくれるお客さんの前で披露して、それで会場が一体となって盛り上がっていく様を見るのはやはり幸せな瞬間です。なので、それは絶対になくならないことだとも思います。
でも、デジタルネイティヴな世代はネット上を主戦場としているアーティストも多いので、今後はライブの見せ方がどんどん若い世代によってアップデートされていくのではないでしょうか。
武居:今後、山賀さんが手掛けるアーティストがさらに飛躍するために重要なトリガーになるものって何だと思いますか?
山賀:難しい質問ですね(笑)。でもとにかく曲を出し続けることが大事かなと思ってます。今は新譜と旧譜の境界線も曖昧ですし、新曲をリリースすると過去の曲が聴かれるという傾向が強いです。トレンドの変化も早く、時代も目まぐるしいので、打ち手は多い方がよいのではないでしょうか。新曲にしても昔の曲にしても、TikTokで突如バズったりするので、なぜそれがバズっているのかを考え、いろいろなところにタネを撒いておくのは大事ですよね。あと、やっぱりタイアップは欲しいです(笑)。
武居:この10年は、音楽の聴き方としてサブスクが定番になったりと大きな変化がありましたが、さらに10年後はどうなると思いますか?
山賀:わからないですが、さらに音楽の聴き方は変わっているでしょうね。サブスクが普及してまだ5年くらいですが、すでに世界のどこかで次世代のダニエル・エク(Spotify創業者)みたいな人がとんでもないことを考えているのではないでしょうか?願わくば、それが日本人であったら嬉しいですね。

武居:そんな山賀さんがいま、“熱い”と思っているアーティストを教えてください。
山賀:めちゃくちゃ個人的な趣味ですが、 “踊ってばかりの国”というバンドが、いま面白いですね。デビューからもう10年以上経ってるんですが、今が一番、脂が乗っているという。音楽業界で仕事をしていると、ピュアに音楽が楽しめなくなることもあるんですが、それでもなお、素晴らしいと思える音楽に出逢えるからこそ、音楽は奥深いなって思いますね。

武居:では最後に、山賀さんにとって音楽とは何かを教えてください。
山賀:これも難しい質問(笑)。
アイデンティティですかね。音楽って、長い人生の中でいろいろな曲やアーティストに出会って、選択的に見聴き、体験することで、他の様々なカルチャーの入り口になっている一面もあるような気がするんです。好きな音楽を入り口に出会った好きな映画や本、旅先とかありますよね?それって繋がっていたりするじゃないですか。なのでその人の好きな音楽を知ると、その人の人物像を想像することができる。そう思うと、これまで聴いてきた音楽が、今の自分を形成しているような気がします。
-
山賀 克也
神奈川県相模原市出身。
エイベックス・エンタテインメント(株)A&R、マネージャー兼チーフプロデューサー。
大手レコードチェーン本部のバイヤー、MDを経て、2002年エイベックス入社。A&Rとして□□□(クチロロ)、コトリンゴ、ケツメイシを担当。cutting edgeレーベルマネージャーを経て、現在は平井 大、Awesome City Club、PiiなどのA&R業務全般を手掛けている。 -
武居 詩織
埼玉県出身。透明感のある唯一無二の存在感で、広告・ファッション雑誌等で活躍。
FUJI ROCKなど国内のフェスに毎年参加するほどの音楽フリーク。
音楽好きモデルとしてライブのレポートなどで活躍する傍ら、有名アーティストのMVにも続々と起用されている。
音楽好きモデルとしてTOKYO FMのYouTubeにて『武居詩織の拝啓、音楽業界さま』を月一で生配信中。