


@JAM総合プロデューサーが語る、ゼロからはじめたアイドルフェスを10年間続けてみえてきたこと
株式会社ライブエグザム 橋元 恵一
音楽業界で輝く方にスポットライトを当て、彼らの仕事や想いを通して音楽業界の今と未来を伝える新企画、3rd Lounge。
第5回は数あるアイドルフェスの中でも人気と知名度を誇り、今年10周年を迎えた『@JAM』の総合プロデューサーを務める橋元恵一氏が登場。音楽ルーツやターニングポイント、仕事をする上で大事にしていること、これからの音楽業界について思うこと、などについて話を聞いた。
インタビュアーは本シリーズのインタビューを数々担当、モデル業を中心に、多岐にわたって活躍する“音楽好きモデル”武居詩織が務める。
Chapter.1
音楽ルーツと@JAMに携わるきっかけ

武居:橋元さんの音楽ルーツを教えて下さい。
橋元:僕が小学校低学年の頃に、ピンクレディーがデビューしたんです。さらに「およげ!たいやきくん」もその頃に発売したんですが、それらのレコードが欲しくて親にねだって買ってもらったのを覚えています。その後はお小遣いでサザンオールスターズや沢田研二さん、当時『ザ・ベストテン』などでヒットしていた音楽をたくさん買っていました。
武居:コレクション欲が強かったんですね。
橋元:そうかもしれないですね(笑)。自分なりにカセットに録音してマイベストを作っていました。今のプレイリストのルーツですよね。その頃はテレビをつければ必ずどこかで歌番組がやっていたので、流行の音楽が自然と耳に、目に入ってきたんです。さらに、部屋には持っているレコードのジャケットを並べたり貼ったりしていて…。やっぱりコレクターですね(笑)。
武居:音楽業界を目指そうと思ったのは何がきっかけだったのでしょうか。
橋元:実は中高生のころに芸能界を目指していて、数年間、そういった活動をしていたんです。でも、若いながらも自身にとっては嫌なところなんかを目の当たりにして、もうあきらめようと思っていたんですよ。その後、大学を卒業して入社したのがデザイン系の商材を売る会社だったんです。そこで担当することになったのが、Macだったんです。
武居:当時では、最先端ですよね。
橋元:そうですね。オシャレなデザイナーさんたちがMacを取り入れていた時代に配属になったんです。ちょうどその頃、ソニーミュージックグループのデザイナーたちがMacを導入するという話があり、そのタイミングで会社に誘っていただいたんです。
武居:音楽は聴いていなかったんですか?
橋元:いや、人並みには聴いていました。J-POPが大好きでしたね。その当時に時代を彩っている音楽はやっぱり素晴らしかったんですよ。僕が入社したのは93年だったんですが、90年代って、本当に何百万枚というヒットが出る時代で。そこに身を置いていたので、すごく刺激的な日々を送っていました。
武居:当時は、今とはまったく違う部署だったんですよね?
橋元:はい。最初に配属になったのはソニー・ミュージックコミュニケーションズ(現ソニー・ミュージックソリューションズ)で、ポスターやPOPなどの販促物や宣伝用のノベルティグッズを作ったり、CDジャケットを作るお手伝いを7年間していました。その後は、10年ほどCDジャケットやミュージックビデオの制作のクリエイティブをプロデュースする仕事をしていました。
武居:そこからどのようなターニングポイントがあり、@JAM関連のお仕事をするようになったのでしょうか。
橋元:その頃は、もっとクリエイティブな仕事を突き詰めてしたいと思っていたんです。とはいえ、クリエイティブな仕事って熱量だけでは出来ないことだと感じていたのと、ずっと最先端を走っていくのってすごく難しいことだなと思っていて。そんな時に、ライブ事業部に異動となったんです。その時はその時で、どうしていいかわからなかったですね。そもそも人事異動が初めてだったので(笑)。これまで近し仕事はしていたけど、全くやることが違うので、すべてが1からだったんです。例えるなら、大学病院で内科の先生がいきなり外科にいき「はい、手術をして下さい。」という感覚ですね(笑)。
武居:新しいことをやるうえで大事にされていたことはどんなことでしたか?
橋元:当時、僕は41歳でしたが、ライブ業界のことが本当に何もわからなかったので、1から教えてくださいというスタンスで入ったんです。その年齢だと、それが恥ずかしいと感じる人もいると思うんですが、ちゃんと“知らない”と言うことで、しっかり教えてもらうことができたんです。それは、結果的にすごく良かったですね。

Chapter.2
@JAMを運営する上で大事にしていること
武居:@JAM EXPOはいまやアイドルフェスの中でもダントツの大規模フェスになりました。この10年、@JAM作り上げていく中で大事にしていたことを教えてください。
橋元:いまは総合プロデューサーと名乗っていますが、舞台監督や音響・照明さんらステージを束ねる制作セクションや、会場まわりを整えてくれる運営セクションなど、プロの仲間たちがそれぞれの仕事をちゃんと担ってくれていることによってフェスが完成しているんです。この部署に入った頃は、全部の業務をやれるほど知識を深める必要があると思っていたんですが、そうではなくチームを信頼して任せることが良い結果になることを学んだんです。
武居:そう思えたきっかけは何だったのでしょうか?
橋元:このフェスで言えば、200組近い出演者、またアーティストのライブ以外のコンテンツも重要な要素なので、僕は数百組のアイドルに対して向き合い、詳しくならないとできないんです。例えば、警備計画や照明技術に詳しくなるより、アイドルを勉強したほうが、答えが見つかると思ったんですよね。熱量の高いファンの人たちと向き合うには、自分も同じくらいの熱量を持っていないといけないな、と思ったんです。アニソンで言えば、原作を全巻読み、アニメを全部見てからじゃないと、アニソンシンガーのことも語れないと思うんですよね。結果、僕は@JAMに、そしてアイドルに集中することにしました。
武居:真摯に向き合うためにも、絞ったということですね。
橋元:そうですね。@JAMも、前身はアニソンやボーカロイド、歌ってみたなどを含めたヲタクカルチャーのイベントだったので、それぞれ勉強したんですが、やはり一括りには出来ないカルチャーでもあり。結果@JAMのなかで大きくしてこれたのがアイドルだった、というところもありますが。
武居:@JAMはすでに10年続いてきたフェスですが、続ける上で大切にしてきたことはどんなことですか?
橋元:実は、続けようと思って始めたわけじゃなくて、結果的に10年続けられた、という感じです。このフェスは限られたジャンルの人だけが知っているものだと思うんですが、だからこそ、出演者の人たちや、見に来てくれた人たちがずっと楽しいと言っていただけるものを作っていくということを大切にしています。
武居:8月には3日間にわたって「@JAM EXPO 2020-2021」が開催されましたね。
橋元:はい。今年は10周年ということで、初めての3日間開催となりました。
ただ、ちょうどその頃は新型コロナウイルスの第5波のピークと重なり、東京都の感謝者数が連日5,000人を超えている時期でもあって。感染対策を万全にしているにしろ、フェス開催の賛否が相当ありましたが、なんとか無事開催ができてよかったですね。収支の面では全然ダメでしたが、10年前、初めて行った@JAMに出演してくれた ももいろクローバーZが参加してくたり、その他さまざまなドラマが生まれました。そういう意味では、今回はやることに意義があったと思います。
武居:コロナ禍だからこそ、ライブをやる意味がありますよね。

橋元:本当にそう思います。乃木坂46やももクロのようなグループがこのフェスに出る意味と、ライブアイドルと言われるインディーズアイドルの子たちがこのフェスにでる意味って違うと思うんです。後者の子たちにとっては、高校球児の甲子園のような側面があるんだと思っています。1年に1回、夏の大きなフェスに自分たちが参加して、実力がどうアップしたのか、どう成長したのかということを多くのお客さんの前で答え合わせする場所のような感覚があるんです。そのためにも、今後も続けていきたいですね。

Chapter.3
今後の音楽業界とは
武居:今後のアイドルフェスや、コロナ禍におけるライブなどはどうあるべきだと思いますか?
橋元:この夏、大きなフェスは今年も出来なかったところが多いですし、難しいですね。昨年は「来年こそは!」なんで思っていましたが、結果大きく変わらなかった。おそらく来年も状況はそこまで大きく変わらないと思うんです。だからこそ、3年、5年先まで考えて行かなくちゃいけないなということを気づかされた年でした。今後、どのような気持ちでコロナと向き合いながら作っていくのかは、みなさんの意見も知りたいですし、他のフェスが考える対策はすべて参考にしたいなと思っています。いま、配信ライブも盛り上がってはいますが、単に見せるものは右肩下がりですし、配信だけをやるのは守りの手なので、有観客と技術を含めた新しい配信をどう共存させながら楽しんでもらえるかを考えていきたいですね。
武居:VRになっていくんじゃないかという話もありますよね。
橋元:そうですね。VRになったら違った楽しみ方が出来ると思います。また配信技術もいま、出演者の衣装にセンサーをつけ、そのセンサーをカメラが自動追尾するシステムや、普段体験できないようなアングルで見られたりするロボットカメラなど、すごく進化していて成長を期待していますが、リアルでみるものと、そういった配信での映像は別のラインで走っていくような気がしています。リアルのライブは今の状況下とどう辻褄をあわせていくのか、そして配信は未来に向けて、どうやってコンテンツとして発信し、成長させていくのかと、それぞれ道が違う気がするので、どちらも把握しながら伸ばしていかなくちゃいけないなと思っています。
武居:今後、フェスを継続していくためには何が大事だと思いますか?
橋元:フェスやコンサートをやる一番の目的はアーティストと観に来る人がいて、その人たちがリアルに対面できる場所を作るため。出演者が放った一言やパフォーマンスで笑ったり泣いたり、そういう感情の交換は本当に大事なことだと思うんですが、配信だとそれが欠けてしまうんですよね。だからこそ、リアルで物を届けることは絶対に必要だと思うので、届けていくことをやめずに続けながら、成長させていくということが一番大事なことだと思います。
武居:橋元さんは、10年後の音楽業界はどうなっていると思いますか?
橋元:う~ん…。音楽そのものは全然変わっていないと思うんですが、10年後、何かしらのジャンル、シーンがしっかりと盛り上がっていればいいなと思っていて。そのシーンをどう作っていくか、もしくは関わりあっていくか、がすごく大事だなと思っています。
武居:フェスの変化もありそうですよね。
橋元:絶対に盛り上がっていると思いますよ。今、各地でフェスをやろうという動きがあるんです。フェスがご当地化されて行けば色も変わっていくと思いますし、例えば音楽フェスだけでなく、芸人さんが出るフェスとか、フードフェスだとか、音楽だけにとらわれず、フェスそのものがもっと活性化していくと思うんです。そう、信じていたいですね。

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橋元 恵一
ポップカルチャー音楽フェス「@ JAM」総合プロデューサー / TOWER RECORDSとの共同レーベル「MUSIC@ NOTE」レーベルプロデューサー / 配信番組「@ JAM THE WORLD」レギュラー出演 / その他 番組企画・監修/アーティストプロデュースほか
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武居 詩織
埼玉県出身。透明感のある唯一無二の存在感で、広告・ファッション雑誌等で活躍。
FUJI ROCKなど国内のフェスに毎年参加するほどの音楽フリーク。
音楽好きモデルとしてライブのレポートなどで活躍する傍ら、有名アーティストのMVにも続々と起用されている。
音楽好きモデルとしてTOKYO FMのYouTubeにて『武居詩織の拝啓、音楽業界さま』を月一で生配信中。